直接覆髄法には、従来から水酸化カルシウム製剤が第一選択として応用されてきたが、硬組織形成が認められる反面、辺縁漏洩性、溶解性、修復象牙質内のトンネル状欠損など、いくつかの問題点が報告されている。申請者は骨組織形成に関与する材料に着目し、歯髄細胞の硬組織形成にも作用する可能性を解析した。本実験に先立ち株化骨芽細胞を用いて基礎的解析の条件設定を確立させた後、治療のために抜去された歯より採取した歯髄細胞にて本実験を行った。 歯髄細胞の増殖に与える影響:Cell Counting kitを使用して7日間まで測定した結果、すべての供試材料とも経日的に細胞数は増加した。それらは材料を静置しなかったコントロールよりMTA、AICAR、ポリリン酸で有意に高かった。しかしながらDycalはコントロールと統計学的有意差は認めなかった。 歯髄細胞のアルカリフォスファターゼ活性に与える影響:Paranitrophenol-phosphateを利用した比色法にて7日間まで計測を行った結果、経日的な増加を示し、AICARとポリリン酸では材料を静置しなかったコントロールと比較して有意に高かったが、MTAとDycalでは統計学的な有意差を認めなかった。 以上の結果より、Dycalを除く供試材料ば歯髄細胞の細胞増殖を高めることが確認できた。また、AICARとポリリン酸においてはアルカリフォスファターゼ活性も有意に高かった。そのためこれらの材料は歯髄細胞の硬組織形成能を誘導する可能性が示唆された。現在、歯髄細胞の症例数をさらに増やすとともに、硬組織形成に関与すると考えられる他の材料についても同様な条件で研究を継続している。なお、本実験を遂行するにあたり、条件設定確立のため使用した株化骨芽細胞でも上記結果と同様な傾向を認め、条件設定に非常に有効であることが推察された。
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