研究概要 |
患者の治療時、できる限り少ない侵襲でとどめるという考え、すなわちminimal intervention(MI)のコンセプトが歯科医師の間で浸透しつつある。う蝕治療に関してもMIにより歯の削除量を減らすためにう蝕を染め出すう蝕検知液の改良やう蝕を選択的に削除する器機の開発が行われてきた。しかし、それらの研究においても、う蝕治療において重要となるのは最終的には術者の感覚、すなわちう蝕を染め出して場合にはどこまで染まっているかを判断する視覚、う蝕を削除する場合には手指の感覚に頼っている部分が多く、う蝕治療の良否が術者の経験に左右される可能性が高い。我々は平成18年度から2年間の文部科学省科学研究補助金(基盤研究(C))「レーザーの色吸収特性を用いたう蝕の選択的除去」、平成20年度から3年間の文部科学省科学研究補助金(基盤研究(C))「レーザー高吸収体配合齲蝕検知液を用いたう蝕の選択的除去」の研究を経て、色による選択性ではあまり吸収特性に影響を受けなかったEr:YAGレーザーであるが、歯質の削除には最も適したレーザーであり、また組織透過型の半導体レーザーよりも表面吸収型であるEr:YAGレーザーの方がより安全に、かつ効率的に選択的う蝕除去が可能になることを人工う蝕象牙質を用いて確認した。今回、我々はこれまでの研究結果を元に、ヒト抜去歯う蝕除去にEr:YAGレーザーの第1級アミノ基を有する化合物を配合したう蝕検知液(以下レーザーマーカー)により染色し、染色された部分のみを削除する際のう蝕検知液の色、濃度とEr:YAGレーザーの出力、削除方法を検討し、臨床における選択的う蝕除去法の確立を試みた。 第1級アミノ基を有する化合物を2,4、6,8%配合したレーザーマーカーを研究協力者である日本歯科薬品株式会社研究所第一研究室長である横田氏に開発を依頼した。う蝕のあるヒト抜去歯の歯根を切断した後、う蝕のあるヒト歯をエポキシ樹脂で包埋し、天然う蝕試料を作製する。天然う蝕試料に対して試作したレーザーマーカーを滴下し、う蝕部を染色したのち、染色部をEr:YAGレーザーにて削除を行う。この際、健全象牙質が削除されず、染色されたう蝕部のみを削除する試作レーザーマーカーの化合物の配合量と照射エネルギーを検討した。
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