| 研究概要 |
1. 目的
脳血管障害等により舌機能が低下した患者においては,舌の口蓋への接触が適切に行えず,摂食・嚥下障害が惹起されることが多い.そのような患者には咬合高径を可及的に下げることや,機能改善を目的とした舌接触補助床の適用が推奨されている.しかし,それらの適応による咬合高径や口蓋形態の変化が嚥下時舌機能に与える影響については,十分には明らかになっていない.そこで,本研究の目的は、実験的に咬合高径を挙上した場合、およびそれに対して舌接触補助床を想定した実験用口蓋床の適応した場合の嚥下時の口蓋に対する舌接触パターンの変化を分析し、舌接触補助床の補綴設計を検討することである.
2. 方法
被験者は健常有歯顎者10名とした.咬合挙上用スプリントおよび実験用口蓋床作製し、1)両者非装着、2)咬合挙上用スプリントのみ装着,3)実験用口蓋床のみ装着,4)両者とも装着時の計4実験条件を設定した.被験食品は水10mlとプリン10gとした。測定には,口蓋の5か所に測定点を有するシート型センサ舌圧測定システムを用い、各実験条における舌圧の変化を測定した.得られたデータから,各条件における舌圧発現順序,持続時間,最大舌圧,舌圧積分値変化について検討を行った.
3. 結果と考察
舌圧発現順序は一部の被験者を除き、おおよそ前方から後方へと接触していく正常パターンを認めた.持続時間,最大舌圧,舌圧積分値は咬合挙上用スプリント装着時に値が減少する傾向が見られた.またスプリント装着時に比較して両者とも装着時には値が増大する傾向を認め,特に舌接触正中前方部および正中後方部において顕著であった.これは咬合挙上用スプリント装着により増大した固有口腔容積を、実験用口蓋床装着により補えたものと考えられた.以上より,舌接触補助床における治療においては舌前方部および後方部の厚さに留意して製作する必要があることが示唆された.
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