1.X線光電子分光法(XPS)による表面元素分析により、アクリルレジン基板に、F・Ag同時イオン注入した注入群およびF・Ag同時イオン注入・成膜した成膜群では、FとAgの両イオンが試料表面に存在することが認められた。しかし、F・Ag同時イオン添加Diamond Like Carbonを作製したDLC膜群では、Fイオンは存在するものの、試料表面およびその表層にAgを示すXPSのピークが認められなかった。 2.接触角の測定においては、注入群、成膜群およびDLC膜群は全て有意に接触角(蒸留水)の増加が認められた。特にC_3F_8+Ag注入群、C_3F_8成膜群およびC_3F_8+Ag成膜群において著明な増加がみられた。また、C_3F_8+Ag成膜群の接触角より算出された表面エネルギーは20.65mJ/m^2であり、固体への細菌付着は固体の表面自由エネルギーが50mJ/m^2よ語も低値を示すとエネルギー的に不利になるとされており、細菌付着に有利な表面性状に改質されることが明らかとなった。 3.歯ブラシ摩耗試験を行い、DLC膜群および成膜群においてブラッシング4000回後もコントロールと比較して接触角は有意に高く、撥水性が維持されていた。また、XPS分析により4000回のブラッシング後もXPS分析により注入イオンが表面に存在していることが確認された。 4.本年度の計画になかった走査型プローブ顕微鏡を行い、歯ブラシ摩耗試験前後の表面形状を比較した。成膜群はブラッシング後摩擦痕が認められまものの、表面の凹凸は密で細かく浅く、均一に摩耗していたが、DLC膜群では成膜層が剥離した像が観察され、粗雑な凹凸像を示した。 以上の結果から、アクリルレジン表面をFイオンおよびAgイオンを用いて口腔内細菌の付着しにくい表面に改質するにはC_3F_8ガスによって注入・成膜する方法が最も有効である可能性が示唆された。
|