研究概要 |
本研究は,義歯などの材料であるアクリルレジン(PMMA)表面にプラズマイオン注入・成膜法(PBII&D)法を用いてF^-およびAg^+を付与して、細菌付着抑制および抗菌性を有する表面に改質することを目的としている。当該年度は、PBII&D法により表面改質を行ったPMMA試料(FAgID群)の表面特性を分析を行った。 1)XPSによる表面元素分析結果 対照群試料表面において,C1sおよびO1sと考えられる286eVおよび534eV付近のピークが検出された。FID群試料表面においては対照群に見られたピークに加えて,F1sおよびFKLLのピークが検出された。それに加えて,FAglD群試料表面においては,369eV付近にAg3d由来のピークが検出された。FID群およびFAgID群において,対照群では見られなかったC-F(288.5eV)およびCF_3(293.0eV)のピークが認められた。 2)AFMによる表面形状の分析結果 対照群の表面粗さ(Sa)は0.9nmであり,比較的平坦な構造であった。FID群およびFAgID群の表面は対照群とは異なり,丘陵状を呈し,Saはそれぞれ2.2nmおよび3.9nmであった。 XPS分析から,C-FやCF_3のような炭素-フッ素の結合や銀の存在が明らかとなり,本方法がPMMAにも応用可能であることが示された。PMMAのような絶縁物質におけるイオン注入法では,チャージアップ現象が問題となるが,これについては,奥井らは,イオン注入時にチタン製網を試料上に設置することにより,チャージアップが防止できたと報告しており,本研究で用いた純銀製網の設置が同様の作用をもたらしたと考えられた。AFM像より,比較的平坦な構造の未処理PMMAに比べ,イオン注入を行った群では丘陵状の凹凸が見られた。この凹凸はPBII&D法に伴うプラズマエッチングによる影響であると考えられた。
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