研究概要 |
下顎前歯部すなわち左右のオトガイ孔間にフィクスチャを埋入するためのドリリング時に,下顎体の中をオトガイ孔よりも前方に走行していく下歯槽神経の前歯枝を巻き込んでしまい,引き抜き損傷によるオトガイ神経の断裂を起こしてオトガイ部の皮膚や小臼歯部の粘膜に知覚麻痺を生じることがある。本研究では下顎前歯部にフィクスチャを埋入する際のドリリング操作で下歯槽神経前歯枝を巻き込むことによるオトガイ神経の引き抜き損傷を防止するために,オトガイ孔内部の神経の走行形態について骨形態を保存した状態で詳細に観察・解析することを目的として研究を遂行した。 解剖実習用遺体から摘出した成人下顎骨を観察試料として,オトガイ孔を中心にブロック状の試料になるよう下顎骨および周囲軟組織の形態調整をおこなったものをデジタル実体マイクロスコープで撮影し,従来法のEDTA溶液に比べて脱灰速度の速いMorse液を脱灰液として用いて骨の脱灰を行った。肉眼的な観察により,オトガイ孔内部のanterior loop部で分岐した切歯枝が骨内を前走している様子が観察された。前枝枝は分岐部付近では1mm以上の太さを有するが,この部位はX線画像に現れないため走行状態を把握しにくい。犬歯部から第一小臼歯付近にフィクスチャを埋入する際には十分な注意が必要である。なお,Sihler液による神経束の染色については,脱灰処理をおこなった後の試料であっても骨内を走行する神経束には染色液が浸透しにくいため,通法通りの処理期間では必ずしも十分な染色結果が得られなかった。処理時間,温度などの諸条件をさらに検討し,より明瞭に観察できる標本の作製をさらに進めていきたい。
|