研究概要 |
メカニカルストレスと顎骨のリモデリングとの関係が注目されている.本研究の目的は,歯の喪失後,補綴治療を受けた患者の顎骨の形態変化と,咬合力下で骨内部に生じる歪みとの関係を明らかにし,これを天然歯列のデータと比較することにより,メカニカルストレスが骨の吸収とリモデリングに及ぼす影響を明らかにすることである. 平成20年度においては,大臼歯部の咬合支持を喪失した症例を対象として,小臼歯部の歯周組織に生じる応力の変化を明らかにすることを目的とした.被験者は下顎の片側(ML1群,7名)もしくは両側大臼歯部が欠損した被験者群(ML2群,7名)と健常な歯列を有する対照群(CD群,7名)とした.下顎臼歯部歯槽骨の形状をエックス線写真と研究用模型から計測し,これを基に三次元有限要素モデルを構築した.次に,各被験者における咬合接触点と咬合力を,咬頭嵌合位における最大咬みしめをもとに計測し,得られた咬合力をモデル上の一致する点に付与した.各小臼歯の咬合力負担と咬合力重心の他,モデルの解析から得られた歯頚部皮質骨に生じる主応力を求めた結果,以下の結論が得られた.すなわち,1)両側性の大臼歯部の喪失は,小臼歯の歯周組織への応力負担の増加を引き起こす.この結果は,咬合力重心の同部への接近と関係が深いと考えられる.2)歯周組織への応力負担の増加は義歯装着によって抑制されない. 大臼歯部の咬合支持を喪失した症例に対しては,咀嚼能力など機能的な側面の検討が多くなされてきた.しかし,機能的な問題以上に,小臼歯など残存歯列の予知性への影響に重大な関心が払われるべきである.また,本年度の研究成果より,メカニカルストレスが骨の吸収とリモデリングに及ぼす影響の一部が明確となった.研究成果を基に,補綴診療により骨内部に安全で望ましいストレス環境を誘導するための新しい診療アプローチを推進する.
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