本研究は、オールセラミックスによる歯冠修復を想定し、咀嚼時に砥粒成分、あるいは繊維質成分が介在したときの陶材および対合歯の摩耗挙動を調べ、食物などが介在したときに陶材が対合歯の摩耗に及ぼす影響を明らかにしようとするものである。平成21年度は、焼成陶材(VITA9エナメル)を曲率半径2mmの先端を有する圧子に成形し、歯質に近い硬さを有する窒化アルミニウムで作製した平板状の摩耗試験片と咀嚼物を介して接触させ、両者の咬合摩耗について調べた。 咀嚼介在物は、平成20年度と同様に、蒸留水に繊維質成分であるメチルセルロースと、砥粒成分である二リン酸カルシウムをそれぞれ0、5、10%組み合わせて含有させた9種を用いた。咬合摩耗は、焼成陶材の摩耗圧子が窒化アルミニウムの摩耗試験片に接触しながら1mmの距離を往復運動し、その後離れるという動作を1Hzの周期で繰り返すことにより行った。咬合圧は40Nとし、500回ごとに咀嚼物を交換しながら合計10000回の咬合摩耗試験を行なった。摩耗試験後、三次元測定顕微鏡で焼成陶材の摩耗面を走査し、得られたデータから最大摩耗深さ、および摩耗体積を算出した。また、窒化アルミニウムについては摩耗による高さの減少を調べた。 以上の結果、焼成陶材の摩耗は咀嚼物の成分によって異なり、最大摩耗深さ、摩耗体積ともに5%メチルセルロースに二リン酸カルシウムが加わったときに大きくなった。この傾向は平成20年度における結果と同様であり、ある程度の粘性があるときに砥粒が存在すると、摩耗が大きくなることを示唆している。高さの減少により評価した焼成陶材の摩耗圧子の摩耗も同様の傾向を示したが、統計的な有意差は認められなかった。
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