歯周病罹患歯に対して、骨髄幹細胞や歯根膜細胞を用いた組織工学的研究が行われており、歯周組織再生の可能性が示されている。しかし歯科診療において再生に用いる細胞として骨髄細胞を用いるには、細胞を腸骨などから採取しなくてはならないなど歯科診療内で採取するには抵抗感がある。また歯根膜細胞を用いた細胞シートによる歯周組織再生療法の研究も行われている。しかし、歯根膜細胞を得るためには歯を抜歯しなくてはならないというデメリットがあるばかりでなく、さらに歯周組織の破壊が進んだ患者さんから正常な歯周組織を採取してくることは困難である。そこで我々は口腔内から採取でき歯根膜細胞あるいは骨髄に代わる歯周組織再生に働く細胞として歯髄細胞に着目した。これまでに我々はヒト歯髄およびラット歯髄をFGF-2で刺激することで、SRTO-1陽性の歯髄幹細胞と考えられる細胞が増殖することを示した。またヌードマウス皮下にこれらの細胞を移植することで骨等の形成を認めている。しかし歯髄組織中から数少ない歯髄幹細胞を効率よく採取するには、歯髄中のどの部位に幹細胞が多く含まれているかを知ることは重要である。そこで歯髄における幹細胞の分布状態を知ることを目的にマウスにトリチウム(3H)サイミジン100μCiを8時間おきに、10日間連続注射を行った。その後麻酔下で屠殺後、下顎骨ごと試料を採取しKarnovsky溶液にて固定を行った。通常通り、脱灰、パラフィン包埋後、4μmの切片を作製しトルイジンブルーにて染色を行った。その結果、歯根部歯髄と比較して歯冠部歯髄に分裂が盛んな歯髄幹細胞と思われる細胞が多数認められた。また、細胞の局在は象牙芽細胞から離れた位置に観察され、歯髄の中央部に認められた。以上の結果から判断し、歯髄を採取する場合には歯冠部より採取することで歯髄幹細胞を確実に採取できると思われた。
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