本研究目的は、口腔癌および口腔粘膜上皮細胞に発現する免疫抑制分子B7-H1の癌および口腔粘膜疾患の病態形成における役割を解析するとともに、新しい免疫制御法開発を探ることである。ヒトケラチノサイトプロモーター(K14)のコントロール下に角化細胞上にB7-H1を過剰発現させたトランスジェニック(tg)マウスを作成した。先ず、DNFBをハプテンとした接触性過敏症皮膚炎モデルにおいて、B7-H1tgマウスにおける過敏反応は野生型マウスと比較し明らかに抑制された。また、感作T細胞の表皮下への移入実験では、tgマウスが宿主となった場合には明らかな反応抑制を認めた。さらにtgマウス由来の角化細胞と感作CD8T細胞との共培養によるIFN-γ産生は明らかに低下するが、B7-H1抗体投与によりその産生量は回復した。以上のことから、角化細胞上に過剰発現したB7-H1は誘発後のすでに抗原感作されているエフェクターCD8T細胞の皮膚局所における活性化反応に対し、直接的に抑制シグナルを与え、皮膚局所における外来ハプテン抗原に対する末梢免疫応答に関与している可能性が示された。次に、メチルコラントレン誘導発癌モデルモデルを用いて、B7-H1tgおよび野生型マウスにおける発癌頻度と癌増大を比較したところ、メチルコラントレン皮下投与7週後において、tgマウスは野生型マウスと比較し、癌の大きさが3倍にもなっている事が観察され、28週後における生存率も有意に低かった。これは角化細胞上に過剰発現したB7-H1が、角化細胞上のE-カドヘリンの発現を抑えることによって、上皮間葉移行を調節することにより、癌発生を促進している事が示唆された。今後、人の扁平上皮癌において、B7-H1の発現量とE-カドヘリンの発現量について解析する予定である。また現在、新鮮凍結切片を用いて、口腔扁平苔癬において臨床視診型とB7-H1の発現量と発現細胞、PD-1陽性T細胞の浸潤度について、検討中である。
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