手術などによる創が瘢痕などなく治癒することはscarless healing (傷のない治癒)と呼ばれており、顎顔面外科の手術において目指すべき重要な課題である。本研究課題では、これまで行なってきた口腔粘膜出来線維芽細胞に特徴的な遺伝子の発現と機能解析を発展させるとともに、実際のヒト皮膚移植モデルを用いて、創傷治癒に与える影響を検討するものである。これにより、瘢痕形成のない創傷治癒を達成するための具体的な治療法の開発を目指す。 1)DNAマイクロアレイ結果解析:口腔粘膜由来および皮膚由来線維芽細胞を、DNAマイクロアレイにより遺伝子発現の違いを調べた。その結果得られた口腔粘膜由来線維芽細胞に特徴的な278の遺伝子について、GO解析(GO ontology)の手法を思いて、創傷治癒に関連する遺伝子の絞込みを行ない、増殖因子、サイトカイン、マトリクスの3群に関連する遺伝子の抽出と順位付けを行った。この内容はJournal of Dermatological Scienceに投稿した。 2)特異的遺伝子のELISAによる解析:1)にて絞り込んだ遺伝子群から、代表的な遺伝子について蛋白レベルで発現をELISA法にて確認した。その結果、血管内皮細胞増殖因子や角化細胞増殖因子は粘膜由来線維芽細胞でより多く産生されていたことが分かった。 3)ヌードマウス皮下へのヒト線維芽細胞移植実験:培養されたヒト口腔粘膜および皮膚由来線維芽細胞をヌードマウス背部皮下に注入した。移植部の標本を作製し、移植された細胞の局在、やマトリックスの産生を検討したが、注入後3ヶ月までは細胞の存在が追跡可能であった。また創傷治癒の速度や質には優位差を認めなかった。
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