前年に引き続いて、広島大学病院の細胞治療専用のヒト細胞培養室、細胞治療室において細胞増殖能および分化能の解析、自己複製の最適化、遺伝子発現の解析、分化制御受容体シグナルの解析を行った。ヒト間葉系幹細胞(hMSC)は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋細胞といった間葉系に属する細胞以外にも分化することが明らかとなり、癌化の可能性や倫理的な問題が少ないことから安全な細胞ソースとして評価されつつある。しかし、一般的には血清添加培地で培養されており、比較検討および臨床応用が難しい。我々の研究グループは、単純で、且つ既知因子のみからなるヒトES圏細胞用無血清培地hESF9を開発し、すでに報告した。この研究では、hESF9をもとに、無血清培養条件の検討を行った。その結果、FGF-2、TGF-β1およびアスコルビン酸は濃度依存的にMSCの細胞増殖を促進した。そこで、hESF9にTGF-β1を加えたhESF10培地と血清を含む指定維持培地POWERDBY10間での各種遺伝子発現を比較検討した。その結果、hESF10培地ではヒトES細胞の未分化マーカーであるNanog、Oct3/4、Sox2の発現はPOWERDBY10よりも高く、また、hMSCマーカーであるCD90、CD105、integrin β1およびtype I collagenも高発現を認めた。一方、骨分化マーカーであるbone sialoprotein、osteopontin、osteocalcin、osteonectinの発現は、POWERDBY10に比べて低いことがわかった。以上のことから、hESF10は、未分化性と多分化能を維持したhMSC細胞の増殖を促進していることが示唆された。今後は、将来の再生医療において、より一層の間葉系幹細胞の実用化に向けた評価を行い、臨床応用に関する安全性とリスク管理に関してのガイドライン、組織構築、管理体制の確立、開発を行いたいと考えている。
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