口腔扁平上皮癌の浸潤と転移を臨床に近い状態で再現できる正所性移植モデルを用いて、特に日常の臨床で使用している抗癌剤に増殖のみならず、浸潤や転移に対する抑制効果があるのか否かを検討した。高浸潤高転移性のヒト口腔扁平上皮癌細胞株のOSC-19細胞をヌードマウスの口底もしくは舌に移植した後に、シスプラチンまたはペプロマイシンを移植後7日目または14日目に投与し、各抗癌剤ならびに各投与時期の違いによる腫瘍増殖に対する効果、浸潤に対する効果、転移に対する効果について検討した。増殖抑制効果では抗癌剤投与により平均38%の腫瘍縮小効果が認められ、PCNA陽性細胞率も有意に低下した。対照群の口底腫瘍は4C型の浸潤様式を呈していたが、抗癌剤投与群の浸潤様式は3型が72.7〜81.8%と多く、いわゆる浸潤様式の抗癌剤投与によるダウングレードが認められ、抗癌剤投与によって腫瘍の浸潤抑制効果が観察された。対照群の頚部リンパ節転移形成率は90.9%であったのに対して、抗癌剤の7日目投与群ではリンパ節転移形成率は45.5%と有意に低下し、また転移リンパ節内での腫瘍進展度も抑制されていた。すなわち抗癌剤投与により腫瘍の増殖のみならず浸潤や転移を抑制していた。また、血管新生阻害剤(TNP-470)を本モデルに同様に使用し、増殖、浸潤ならびに転移抑制効果の有無についても検討を行った。その結果では、増殖、浸潤、転移にそれぞれの抑制効果が認められた。また、線維芽細胞増殖抑制剤(トラニラスト)を用いて同様の検討をした結果でも、増殖、浸潤、転移にそれぞれ抑制効果が認められた。さらに、in vitro浸潤モデルを用いた実験でも、トラニラスト投与による浸潤抑制効果が観察された。本剤は特に高度浸潤癌における治療に対し有用である結果であった。
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