研究概要 |
全身麻酔薬が脳や脊髄に可逆的に作用することにより起こる麻酔状態は,健忘,鎮静,意識消失,鎮痛,侵害刺激による体動の抑制(不動化),自律神経反射の抑制などの要素からなる.しかし,これらの各麻酔構成要素がどのような作用機序を介して生じているのかは今のところよくわかっていない.昨年度の科学研究費補助金実績報告書において,全身麻酔要素の一つである不動化にオピオイド受容体およびα_2アドレナリン受容体の活性化が関係していることを報告した.オピオイド受容体作動薬(morphine)やα_2アドレナリン受容体作動薬(dexmedetomidine)は侵害刺激によって生じる一次知覚神経からのサブスタンスP(SP)遊離を抑制することから,静脈麻酔薬であるpentobarbitalが脊髄後根神経節(DRG)培養細胞からのSP遊離に影を及ぼすか,また,morphineやdexmedetomidineがpentobarbitalの不動化を増強するか行動薬理学的に検討した.行動薬理学実験では,実験動物としてddY系成熟雄性マウスを用い,全ての物は全身投与した.培養実験では,Wistar系成熟ラットの脊髄からDRG細胞を取り出し初代培養を1週間行った後,capsaicinもしくは高濃度K^+刺激によりDRG細胞からSPを遊離させた.SPはラジオイムノアッセイ法にて測定した.培養実験において,pentobarbitalはcapsaicin刺激によるSP遊離を濃度依存性に抑制したが,高濃度K^+刺激によるSP遊離は抑制しなかった.行動薬理学実験において,morphine(10mg/kg)はpentobarbitalの不動化作用を有意に増強したが,dexmedetomidine(0.45mg/kg)は影響しなかった.以上より,pentobarbitalの不動化には,少なくとも部分的に,SP遊離抑制作用が関係することが示唆された.また,pentobarbitalはmorphineと同様の機序を介して一次知覚神経からのSP遊離を抑制するのかも知れない.
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