生体膜構造に関する最新概念に基づき、特異的膜成分や膜マイクロドメイン・脂質ラフトに着目して、麻酔薬と生体膜の機序的相互作用を再検証した。また、膜相互作用を背景とした新しい視点から、麻酔薬が潜在的に有する新規活性を検討した。その結果、以下のような成果を得た。 1.方法論的開発:脂質二重層リポソーム系と蛍光プローブを組み合わせ、昨年度から継続する方法論的開発を完了して麻酔薬に応用できる膜脂質抗酸化活性測定法を確立した(成果発表雑誌:Analytical Sciences)。 2.応用研究:開発した方法の応用として、全身・局所麻酔薬の抗酸化活性を定量的に比較するとともに、構造-活性相関を解析した(成果発表雑誌:European Journal of Pharmaceutical Sciences)。 3.薬物構造に特異的な心毒性:心筋細胞モデル膜に種々の局所麻酔薬を作用させて膜相互作用強度を測定したところ、酸性リン脂質組成を変化させると心毒性と相関した膜作用強度を麻酔薬が示した。そして、ブピバカインの構造特異的心毒性に、心細胞ミトコンドリア内膜に局在するカルジオリピンとの相互作用が関与する可能性を提唱した(成果発表雑誌:Chemico-Biological Interactions)。 4.平成22年度研究への予備的検討:立体構造選択的作用(相対的作用強度:S(-)-ブピバカイン<ラセミブピバカイン<R(+)-ブピバカイン)の機序ならびに麻酔効果発現へのラフトの関与を解析するため、キラル膜脂質組成を変えたモデル膜ならびに数種のラフトモデル膜に種々の麻酔薬を作用させて膜流動性変化を比較検討した(成果発表雑誌:Journal of Anesthesia投稿中)。
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