口腔粘膜は食物や嗜好品などの生活環境因子から様々な刺激を受ける。それらの刺激、つまりストレスは粘膜の最表層にある扁平上皮の分子(核酸やタンパク質)に変化を生ぜしめ、その集積が口腔発がんをもたらすと考えられる。発がんの前段階で、外的ストレスによって細胞分子にもたらされる潜在的な修飾や変化は分子的損傷と云える。そこで酸化ストレスなどが口腔粘膜上皮に分子的損傷を与えることを調べるため、扁平上皮細胞を培養し、過酸化水素などの活性酸素や炎症性サイトカインにて刺激して注目する分子の変動を調べた。 過酸化水素やTNFalphaによってプロテアーゼであるMMP-9やADAM-17の発現が上昇することをPCRにて確認した。また、核酸の酸化物である8-オキソグアニンの発現を免疫染色で調べたが、アーチファクトが多く現在さらに検討中である。8-オキソグアニンを分解し、発がんを抑制すると考えられるMTH1の発現をPCRとimmunoblotで調べると、扁平上皮はMTH1を恒常的に発現しているものの、過酸化水素やTNFalphaの刺激によって、MTH1発現が抑制されることが示された。このことは、活性酸素などの酸化ストレスによってMTH1発現が調整されていることを示唆している。 活性酸素からどのようなシグナルでMTH1遺伝子に情報が伝わるのか、そのメカニズムを調べ、さらにMTH1の発現量や発現パターンを癌細胞と正常細胞とで比較できれば、MTH1が口腔発がんの危険因子または予防因子の1つとなる可能性がある。
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