口腔粘膜は食物や嗜好品などの生活環境因子から様々な刺激を受ける。それらの刺激、つまりストレスは粘膜の最表層にある扁平上皮の核酸やタンパク質に変化を生ぜしめ、その集積が口腔発がんをもたらすと考えられる。発がんの前段階で、外的ストレスによって細胞分子にもたらされる潜在的な修飾や変化は分子的損傷と云える。そこで酸化ストレスなどが口腔粘膜上皮に分子的損傷を与えることを調べるため、扁平上皮由来細胞を培養し、過酸化水素などの活性酸素(酸化ストレス)で刺激してDNA酸化(8-oxoguanine)の変動を調べた。8-oxoguanineは遺伝子に取り込まれるとミスマッチによる遺伝子変異さらに発がんをもたらすことがわかっている。 ヒト正常角化細胞、HaCaT細胞(ヒト不死化角化細胞)およびヒト口腔扁平上皮癌細胞をそれぞれ培養し、過酸化水素で刺激すると、すべての細胞種で、8-oxoguanineの発現が細胞質から核内に局在が変化した。24時間後には核内から再び細胞質に局在がもどった。8-oxoguanineを分解できる酵素MTH1、MTH2およびNUDT5の発現変化を過酸化水素刺激の有無で調べると、癌細胞と不死化細胞ではそれらの発現に変化がないが、正常細胞では過酸化水素刺激によってNUDT5の発現が経時的に増大することがPCR法とウエスタンブロット法によって確かめられた。また、細胞染色をするとMTH1、MTH2およびNUDT5はともに細胞質に局在していたが、過酸化水素刺激によってNUDT5のみ発現が増加した。これらのデータは、口腔粘膜のがん化予防には、MTHよりもNUDT5が関与することを示唆している。
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