近年、種々の先天異常症例にみられる顎顔面の不調和に対して、骨延長法が適用されている。当分野では上顎骨の劣成長に対して、rigid external distraction(RED)systemを用いた骨延長術を施行し、良好な結果を得ている。しかしながら、口唇口蓋裂に伴う口蓋粘膜あるいは口唇の術後性瘢痕組織が著しく拘縮した症例においては、上顎骨の前方移動が困難であることもしばしば経験される。本研究では、RED systemの牽引ワイヤーに23mmの超小型張力センサ(SSK社、TL6-5)を組み込み、毎日のアクチベート時にワイヤーの張力を計測した。 今回、17歳2か月の両側性口唇口蓋裂の男性(症例1)、および23歳7か月の左側口唇口蓋裂の女性(症例2)を用い、上顎の前方移動様相と上顎にかかる牽引力の関係について検討した。症例1の上顎前方移動量(骨延長量)は14.5mmで、骨延長に要した延長器のアクチベート量は22.5mmであった。従って、本症例の骨延長術における延長効率は64%であった。一方、症例2においては、上顎前方移動量が9.0mm、アクチベート量が16.0mmであったので、延長効率は56%であった。そこで、これら2症例におけるアクチベートに伴う牽引力の変化を検討したところ、アクチベートを開始した日からのアクチベート量の合計(x、単位mm)と牽引力(y、単位ニュートン)の関係は、症例1でy=0.85x+0.95、症例2でy=1.56x+2.37に回帰可能であった。従って、延長効率の高い症例においては、アクチベートに伴う牽引力の上昇が緩やかである可能性が示唆された。これらの結果より、牽引力の計経時的な計測は、個々の症例における骨延長時の上顎前方移動の効率を把握する上で、重要な情報を提供しうるものであることが示唆された。
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