被虐待児はセルフ・エスティーム(以下SE:自尊感情)が低いとされ、歯科では齲蝕多発傾向や口腔外傷などが問題とされている。 被虐待児のSEと口腔状態を把握するため、平成21年度と同様に新潟県の某児童相談所に一時保護されている被虐待児を含む小児65名(男子31名、女子34名)を対象とし歯科検診、歯垢染色、ブラッシング指導、機械的歯面清掃を行い、齲蝕罹患状態、治療状況、プラークコントロールレコードなど口腔状態を記録した。SEについては、Popeによる子供用5領域自尊心尺度を用いて、60問の質問票を作成して小児に記入してもらった。また、退所前に歯科に関するアンケート調査を実施した。SE値の対照群として、新潟大学医粛学総合病院小児歯科診療室を受診した6-15歳の小児102名のデータを用いた。 入所児65名(2-15歳)の入所理由(重複あり)は、虐待45名、ドメスティックバイオレンス同伴児20名、養護11名、非行7名、不登校2名、その他3名であった。SEに回答できた入所児(7-15歳)43名の平均SE値は59.16±14.54で、対照群の平均SE値73.92±16.81と比べ有意に低い値を示した。歯科治療の必要な小児は65名中35名(54%)で、虐待ありで62%、虐待なしで42%の小児が未処置歯を有しており、被虐待児は歯科を受診していない傾向にあることが示唆された。退所前のアンケート調査では歯を大切にしたい:87%(26/30名)、歯を磨くと気持ちよい:73%(22/30名)など口腔の清潔感や歯の大切さを肯定する者の割合が高かったことから、被虐待児の健康指南力とSEの向上に歯科的関与の有用性が認められた。
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