研究課題
歯に矯正力が加わると、歯根膜組織で炎症様反応を含む初期反応が生じる。歯の移動の痛みや歯根吸収といった矯正治療に伴う副作用の多くは、この初期反応に関連することが示唆されるものの、その発生の詳細は不明である。歯根膜には間葉組織、血管、神経組織といった異なる組織が混在し、これらの相互作用を含む反応を理解することは容易ではない。そこで本研究では、歯の移動によるこの初期炎症反応を強力に誘導する一酸化窒素(NO)の役割の詳細を検討することを目的とした。本年度においては、NOSノックアウトマウスの表現型を検討するための予備実験としてC57BLマウスを用いて実験条件の検討を行った。これまでの歯の移動実験では、ほとんどの実験動物にラットが用いて行われており、本年度の研究の目的として、遺伝子改変マウスにおいて骨や歯槽骨での表現型を検討するための、実験条件の詳細な設定を試みた。その結果、歯の移動方法として、これまでラットの歯を移動させるために用いられたエラスティックと比べて、弾力が高く、非常に細い500μmの弾性スレッドを用いる方法を考案した。組織像から、歯に適切な矯正力が加わり、過度な骨や歯の吸収が生じることなく歯が移動することが確認された。この実験モデルを用いて、TRAP染色をおこなった結果、歯の移動開始、6時間後、12時間後、24時間後、72時間後に、TRAP陽性細胞数を確認し、骨吸収の動態を確認するのが適切であることが明らかとなった。特に、ラットにおける歯の移動モデルと異なり、歯の移動開始6時間後にはTRAP陽性細胞数が増加することを見出した。また、in situ hybridizationによって骨代謝マーカー遺伝子のmRNAの分布を検討した。これらの研究結果を元に来年度はNOSノックアウトマウスを用いて、TRAP細胞の出現と骨代謝マーカーmRNAの発現動態を元に表現型の解析を行い、歯の移動においてNOSが果たす役割を検討する予定である。