閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の歯科的治療として認知されている口腔内装置について、無呼吸の改善、効果を疑う余地はない。このような劇的な効果が得られる反面、歯や歯列への違和感とりわけ起床時の咬合不快感などの副作用が問題視されてきた。George(2001)は起床後1時間程度で違和感は消失すると報告したが、詳細にデータを検討した報告は我々の知るところない。本研究では、実験的に口腔内装置を一晩装着させ、装置使用後の歯の動揺、咬合機能の経時的変化を明らかにすることを目的とした。 歯周組織に異常を認めない個性正常咬合を有する5名の成人ボランティア(平均年齢26.2歳)を被験者とした。広島大学病院矯正歯科でOSA患者に用いている口腔内装置(下顎前方位は最大前方位の2/3、垂直間距離は3-4mm)を各々に作製し、慣れさせてから一晩装着させた。起床後に装置を取り外した直後から、5分、15分、30分、60分、120分の間隔で、歯の動揺度(上下右側中切歯、犬歯、第一大臼歯:PERIOTEST)と咬合力と咬合接触面積(最大かみしめ3秒間:Dental Prescale)を測定した。さらに痛みの主観的評価にvisual analogue scale(VAS)を用いて、装置未装着時のベースラインの値と比較し以下のことが明らかとなった。 最大咬合力と咬合接触面積は、いずれも装置撤去30分後から直後の値と有意差を認めた。すでにベースライン値の80%に達する者もいたが、50%に満たないケースもあった。また、咬合重心は漸次、前方から後方へ移動した。装置を撤去した直後の歯の動揺度は、下顎中切歯が最も高い値を示し、ついで上顎大臼歯、犬歯の順となった。動揺度は経時的に減少傾向を示した。VAS値については、で使用終了直後と15分経過時の間で有意差を認めた。 上記の結果から、これまでの報告と同様に、おおむね30分~1時間ほどでベースライン値付近まで咬合機能が回復する傾向が見られた。これは歯への不快感が消失したことと、前方に誘導されていた下顎頭が元の位置に戻ったためと考えられる。しかし一部の被験者で咬合機能低下や不快感が長く続いたことから、装置使用には十分留意する必要が強く示唆された。
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