睡眠時無呼吸症候群の歯科分野治療には、気道拡大を目的とした下顎前方保持型口腔内装置が多用されており、これらは上下床一体型装置と可動型装置に大別される。本研究では二種類の装置装着による顎口腔機能への影響を比較し、歯列・咬合への副作用が少ない装置の臨床実用化を目的とした。 被験者として顎関節、歯、歯周組織に異常がない成人ボランティア12名を選択した。一体型口腔内装置は、厚さ0.75mmの硬質レジン上下床を最大随意前方位の2/3、垂直間距離3-4mmの位置で固定し作製した。可動型装置は、同素材の上下床を前方位、高径ともに同条件の位置でフレキシブル矯正用ワイヤーにより接続した。それぞれの装置を一晩装着させ、起床後に装置を取り外した直後から、5、15、30、60、120分の間隔で、咬合力、咬合接触面積、咬合重心と歯の動揺度を測定した。さらに咬合時の主観的痛みをvisual analogue scale(VAS)を用いて評価した。各測定項目を装置未装着時のベースラインの値と比較し、以下のことが明らかになった。 一体型装置では、咬合力、咬合接触面積は30分後までベースラインと比較し有意に低い値を示し、咬合重心は有意に前方に位置していたが、可動型装置では有意差は15分間にとどまった。歯の動揺度は、一体型装置を取り外した直後では下顎中切歯で有意に大きな動揺度を示したが、可動型ではいずれの歯においても有意な動揺度は示さなかった。VASは、一体型装置を外した後30分間有意に大きな痛みを示したが、可動型装置では5分間にとどまった。 以上のことから、下顎可動性を有する口腔内装置は、一体型装置と比べて装置を取り外した後の咬合機能回復と痛みの消失が早いことが明らかになった。このことから可動型装置は装置使用のコンプライアンス向上に寄与し、SAS治療により有効であると考えられる。
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