顎顔面骨格の一部である下顎頭軟骨は頭蓋骨とともに顎関節を構成し、咀嚼などの複雑な運動に適応しているだけでなく、下顎骨の成長にも寄与しており、長管骨の関節軟骨と成長板軟骨の両方の機能をもつ特徴的な組織である。構造的に四肢の関節軟骨や成長板軟骨が薄い軟骨膜におおわれているのに対し、下顎頭軟骨は間葉系組織でおおわれており、胎生および出生後の下顎骨の成長はこの下顎頭軟骨の表層に存在する未分化な間葉系細胞が軟骨細胞に分化後、内軟骨性骨化が起こることによると考えられている。一方、Ten-m/Odz3遺伝子は、ショウジョウバエの体節形成遺伝子の中のペアルール遺伝子として同定され、ヒトからショウジョウバエまで様々な種で発現が認められており、発生時期における形態形成への関与が考えられている。本研究は下顎頭軟骨の形成、成長、機能維持におけるTen-m/Odz3の役割を検討することを目的としている。本年度は、1日齢、1週齢、3週齢マウスを用いて、下顎頭軟骨の形成過程におけるTen-m/Odz3遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーション法を用いて観察し、1日齢マウス大腿骨の関節軟骨、成長板軟骨と比較検討した。さらに、マウス軟骨細胞前駆細胞株ATDC5細胞からRNAを抽出し、Ten-m/Odz3遺伝子の発現をRT-PCRにより測定した。その結果、Ten-m/Odz3遺伝子は、I型コラーゲンが発現する線維層、II型コラーゲンが発現する増殖、成熟軟骨細胞で発現し、肥大軟骨細胞では発現が認められなかった。また、ATDC5細胞において、未分化な細胞から軟骨細胞へと分化する初期段階において、Ten-m/Odz3遺伝子の発現を認めた。以上より、Ten-m/Odz3は、軟骨細胞の分化に関与し、下顎頭軟骨の初期分化の調節因子として働いている可能性が示唆され、国際誌であるJ Anatomyに掲載された。
|