歯の再生は先天的に歯が欠如する患者にとっては夢の治療法であるが、現状での歯の再生に関する研究の多くは動物を用いており、ヒト細胞での報告はない。歯の発生は上皮間葉相互作用で進行することは知られており、歯の再生においても上皮と間葉の両方の細胞を必要とする。近年、ヒトの間葉系幹細胞は歯髄や歯根膜、さらには脱落した乳歯からも発見されているが、エナメル上皮細胞の供給源は大きな課題である。そこで本研究ではヒト下顎第三大臼歯歯胚からヒトエナメル上皮細胞を分離培養する技術の開発を行った。資料は研究実施計画に則り、本学附属病院歯科医療センター矯正歯科外来で矯正治療中の8歳から12歳の患者より摘出した下顎第三大臼歯歯胚を用いた。歯胚をコラゲナーゼとデスパーゼにて細胞を分散させ、これらの細胞をDMEM/hamF12、EGF、FGF2存在下で無血清培養を行った。その結果、培養1週間前後から上皮細胞のコロニーが形成されるのを確認した。0.25%トリプシン+EDTA処理によって間葉系細胞のみを培養皿より除去して上皮細胞のみを培養することにより、エナメル上皮細胞を獲得した。これらの細胞は、免疫染色によって、Eカドヘリン陽性、CK14陽性、CD49F陽性、CD133陽性、P63陽性を示した。また、FACSによって約90%の細胞がEカドヘリン陽性を示した。以上のことから、これらの条件により下顎第三大臼歯からヒトエナメル上皮細胞の分離培養することが可能であることが示された。今後ヒト間葉系幹細胞とヒトエナメル上皮細胞によるヒトの歯の再生研究を進める予定である。摘出した第三大臼歯歯胚からのエナメル上皮細胞を、ヒトの歯の再生に用いる可能性を見出すことができたことより、将来的に全てヒト細胞によるBiotoothの作製が期待できる。
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