研究概要 |
歯科矯正学的治療の免疫組織化学的基盤,すなわち歯科矯正学的メカニカルストレスを付与したマウスの歯根膜組織を用いて,その初期における病理組織学的変化を調べるとともに,骨芽細胞分化関連因子であるRunx2とMsx2の免疫組織化学的発現の変化について追究した。当該の牽引側歯根膜線維芽細胞は,メカニカルストレスを受けた20分後には両者の強い発現があり,この傾向は時間の経過とともに増強していた。24時間後においては,歯根膜線維芽細胞,骨芽細胞,セメント芽細胞に強発現していた。また,ALPの発現も同様であった。以上の所見から,Runx2は初期の骨芽細胞への分化を誘導し,Msx2はその際の促進因子として働く事が強く示唆された。 メカニカルストレス付加後に,牽引側において発現するBMPの発現状況についても追究した。実験にはddYマウスを用い,Waldo法によって行った。免疫組織化学的にBMP-2/4は,対照群ではいずれも極めて弱い発現であったのに対し,実験群においては20分と極めて初期に強い発現がみられた。これは,初期のメカニカルストレスは,BMPsの発現増強によってRunx2の発現を促し,骨芽細胞への分化を誘導する事を示すものであろう。 熱ショックタンパク質(HSP)は熱ショックのみならず,メカニカルストレスに対しても発現する。歯科矯正治療は,関連する歯周組織にメカニカルストレスを負荷する。それを受けた後の歯周組織に発現するHSPの状況を調べる事は極めて重要である。そこで今回,歯科矯正学的メカニカルストレスをWaldo法によってddYマウスの歯根膜組織に与え,その後の変化を病理組織学的ならびに免疫組織化学的に検索した。その結果,対照群ではHSP27と70はともに極めて弱い発現であったのに対し,実験群の牽引側歯根膜組織にHSP27と70の両者の発現増強がみられた。これらの所見は,HSPsは歯根膜組織の恒常性の維持に寄与している事を示唆していた。
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