研究概要 |
メカニカルストレスが惹起する細胞分化の分子調節機構について,歯科矯正学細胞分化について検討した。すなわち,歯科矯正学的メカニカルストレスを付与したマウスの歯根膜組織の病理組織学的変化を調べるとともに,誘導されるHSP27とp-HSP27の初期における発現状況の変化を免疫組織化学的に検討したのである. 実験動物としてddYマウスを使用し,Waldoの方法によりマウスの上顎臼歯間にセパレーターを挿入して矯正学的なメカニカルストレスの付与を行った.実験開始後10分,20分,1時間,3時間,9時間および24時間で当該部を切り出し,4%パラホルムアルデヒド0.05Mリン酸緩衝固定液にて固定した.その後,パラフィン連続切片標本を作製し,病理組織学的に検討するとともに免疫組織化学的にHSP27およびp-HSP27の発現状況を検討した.なお,対照として無処置群を設定した. その結果,対照群の歯根膜線維芽細胞はその全周にわたってHSP27の活性がみられ,これは低い状態で保たれていた.p-HSP27の活性はそれよりもかなり低い状態で保たれていた.実験群では,HSP27は10分で牽引側の歯根膜線維芽細胞に免疫陽性反応の局在化がみられ,時間の経過とともにこれらの陽性反応は増強し,9時間では歯根膜線維芽細胞,骨芽細胞にも強く発現していた.p-HSP27も経時的に陽性反応の増強を示したが,HSP27の発現を追うように,若干遅れていた.これらの実験結果はメカニカルストレスによってHSP27のリン酸化が促進され、結果生じたp-HSP27は牽引側歯根膜線維芽細胞の活性化による組織の修復やホメオスタシスの維持,また骨芽細胞活性化による同部への骨添加傾向へのシャペロンとして働いていることを強く示唆した。
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