研究概要 |
小児期に歯を喪失した場合、顎骨の成長抑制や顎変形症が生じるなど口腔機能、形態に障害が生じること、さらに全身的にも知能や情動に影響を及ぼすという報告はある。同様に老年期に歯を抜いた場合、全身的に影響を及ぼすという報告はある。しかしこれらは小児期、老年期に抜歯し、その直後のみをみたものであって、長期間歯がない状態ではどうなるかの報告はない。そこで老化促進マウスを用いて、離乳直後の生後4週で上顎左右側臼歯を抜歯し(抜歯群)、そのまま成年期(抜歯後4か月)、老年期(抜歯後8か月)まで飼育した。 1,長期間の歯の喪失によるストレスを調べるために血中コルチコステロン濃度を抜歯後9日、4か月、8か月に測定した。その結果、成年期、老年期のマウスではコントロール群に比べ、抜歯群の方が有意に上昇していた。 2,空間記憶能を調べるため、Morris水迷路テストを行った。その結果、成年期、老年期のマウスではコントロール群に比べ、抜歯群の方が記憶能が劣っていた。 3,Nissl染色による海馬神経細胞数を測定した。その結果、成年期、老年期のマウスではコントロール群に比べ抜歯群の方が細胞数が少なかった。 これらの結果より歯の早期喪失は慢性ストレスとして働き、中枢特に海馬に影響を及ぼすことが明らかになった。今後、細胞の喪失に対し、代償として働くといわれているglial fibrillary acidprotein(GFAP)陽性細胞数を測定する予定である。
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