研究課題
本研究は歯槽骨破壊の防止と動脈硬化抑制のためのWntシグナル制御による新規治療の開発を目的として、歯周炎におけるWnt分子の発現、さらにWntによって発現を調節されているOPG遺伝子の働きなどを詳細に検討するように計画された。このWntシグナルは歯周炎のみならず動脈硬化などの全身疾患とも深い関わりを有するため、歯周炎と全身疾患の関わりについても研究を進めてきた。本年度は歯周炎における免疫応答が全身疾患に与える影響の一つとして、抗リン脂質抗体症候群との関わり、糖尿病との関わりについて報告した。歯周病原性細菌は宿主の分子と相同性を持つことによって宿主からの攻撃を逃れることが知られているが、宿主側がこれらの細菌に対して免疫応答を引き起こすと自己免疫疾患のように宿主の分子を攻撃してしまう可能性が指摘されている。歯周病原細菌であるAa菌にも宿主の血液凝固に関わるbeta-2 glycoprotein Iとの間に相同性が存在し、A.actino mycetemcomitans菌によって自己のbeta-2 glycoprotein Iと反応する抗体が誘導されることを報告した。歯周治療によって糖尿病の病態が改善することも報告している。OPG分子には破骨細胞形成を抑制する他に、細胞のアポトーシスを抑制する事も知られている。OPGが存在しないマウスでは血管の石灰化がおこる。In vitroの研究として歯周組織の主要な間葉系細胞である歯肉線維芽細胞や歯根膜線維芽細胞におけるWntシグナル活性化の影響を検討し、歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞はともにWntシグナルの活性化によってOPGを産生することを明らかにした。
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