研究概要 |
糖尿病患者において,しばしば歯周病が重篤化する傾向があることが臨床的に知られている。この歯周病の悪化は,従来,我々が知り得なかった不特定の因子が原因となる可能性がある。これらの因子を把握するために,我々は歯周組織の主細胞である歯肉線維芽細胞において,高血糖によって変動する遺伝子群を遺伝子マイクロアレイ法によって網羅的に解析した結果,MMP-3の産生性が亢進することを見出した。そこで,高血糖による歯肉線維芽細胞の作用をさらに検討することとした。細胞はヒトの歯肉から分離した歯肉線維芽細胞を用いた。培地中のグルコース濃度は,25mM(高血糖)あるいは5.5mM(健常血糖)に設定した。なお,5.5mMグルコース含有DMEMに19.5mMマンニトールを加えた実験系を高血糖状態の浸透圧対照として用いた。細胞のMMP-3産生およびsIL-6R産生量は,市販のELISAキット(R&D)を用いて定量した。その結果,高血糖状態で培養した歯肉線維芽細胞のMMP-3産生量は,その遺伝子マイクロアレイ解析の結果に相応して有意に増加した(Student's t-test, P<0.05)。一方,sIL-6Rの産生性に著明な亢進は見られなかった。このことは,高血糖によって歯肉線維芽細胞の複数の遺伝子発現の様態が変動し,とりわけMMP-3の発現が亢進したことは,MMP-3産生の亢進が糖尿病患者に見られる歯周病悪化を誘導する可能性が示唆される。さらにsIL-6R産生性は変化しなかったので,歯肉線維芽細胞の機能として,高血糖とIL-6シグナル伝達系の相互作用は生じ得ないことも併せて示唆された。
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