研究概要 |
昨年度の研究結果から,歯根膜細胞の分化過程において,細胞骨格の性状およびRhoA-Rho kinases(ROCK)シグナルが変化することが分かった。そこで申請者らは,RhoA-ROCKによる歯根膜細胞の分化制御機構を調べることを目的に1, 歯根膜組織からの伸展増殖過程におけるROCK阻害剤の影響2, 歯根膜細胞から硬組織形成細胞への分化過程におけるROCK阻害剤の影響3, 歯根膜細胞におけるRhoA過剰発現の影響について本年度調べた。 1, 歯根膜組織のsingle-cell suspensionにROCK阻害剤(Y-27632)を添加し,伸展増殖した細胞の未分化度をアルカリフォスファターゼ染色によって調べた。伸展増殖した細胞はコロニーを形成し,Y-27632によってアルカリフォスファターゼ陽性コロニーの比率が増加する傾向を確認した。すなわち,ROCKの抑制は歯根膜幹細胞の未分化増殖を促進する可能性がある。 2, 上記コロニーを継代して得た歯根膜細胞にY-27632を添加し,アクチン線維の重合量,アルカリフォスファターゼ活性,およびカルシウム沈着量を調べた。Y-27632は濃度依存的にアクチン線維の重合を阻害し,これに伴って,硬組織形成細胞への分化マーカーも減少した。 3, 継代培養した歯根膜細胞に,昨年度作製したRhoAの活性型(RhoA-V14)配列を含む発現ベクターをエレクトロポレーション法にて遺伝子導入した。選択培地での培養後,アクチン線維の著しい増加と形態学的変化を伴う歯根膜細胞を確認した。 以上の結果から,Rho-ROCKシグナルは歯根膜細胞の細胞骨格分子の調節を介して硬組織形成細胞への分化を促進する可能性が示唆された。今後,RHoAおよびROCKを発現調節した歯根膜細胞株の性状の解析を行うことによって,歯根膜細胞移植の可能性を探索する。
|