研究概要 |
アディポネクチンの炎症における役割を検討するために、精製したリコンビナントマウス球状型アディポネクチン(gAd)をマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の培養上清に添加して、DNAマイクロアレイによりサイトカイン関連遺伝子の発現状況を観察したところ、1時間後に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の転写が、未刺激細胞に比べて約107倍上昇していた。また、gAd刺激の容量及び時間に依存して培養上清中にG-CSFの分泌量が増加した。 gAdによる刺激はERK、MEK、p38、JNKのすべてをリン酸化したが、G-CSFの分泌は、ERK、MEKそれぞれの特異的阻害剤により阻害されたものの、p38、JNKの特異的阻害剤では阻害されなかったことから、ERK-MEKを経由して刺激されていることが示唆された。また、I_кB阻害剤によってもG-CSFの転写及び分泌は阻害されたことから、NF-кBの活性化が関与していることが示唆された(Mol Cell Endocrinol,292,20-25)。また、gAdによる刺激で、4時間刺激以降から活性酸素種(ROS)及び一酸化窒素(NO)が産生されたが、このgAdの誘導するROSとNOの産生は、それぞれNADPH oxidase(NOX)及び誘導型NO産生酵素(iNOS)の活性に依存していた。12時間以降からカスパーゼ-9 、-3依存性にアポトーシスが誘導されたが、このアポトーシスは、RNA干渉よりNOXサブユニットgp91^<Phox>、p47^<Phox>及びiNOsの発現を特異的に阻害することで部分的に抑制されたことから、ROS及びNOの産生が関与していることが示唆された(Free radic biol med,45,1326-1339)。gAdは全長アディポネクチンがリンパ球由来エラスターゼにより分解されて生成されると考えられていることから、血清中のアディポネクチンが炎症局所でgAdに変換されることで、早期にはマクロファージのG-CSF分泌能を高め、炎症局所の免疫機能を強化させた後、長時間の作用としてマクロファージをアポトーシスにより排除し、炎症反応の亢進を制御していると考えられた。
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