動脈硬化は心筋梗塞、脳梗塞などの日本人の死亡原因の多くを占める疾病の原因となる血管の変化である。動脈硬化の成因は血管内皮細胞の機能的傷害であるという“傷害反応仮説"によって説明されているが、現在もなお高血圧、脂質代謝異常、喫煙、肥満、年齢といった古典的リスクファクターだけでは説明できない動脈硬化患者が存在する。近年、疫学研究では歯周疾患の有無と心臓脈管系疾患の罹患率との間に関連性があること、臨床細菌学的にはヒトの動脈硬化病巣から口腔細菌が分離されたことが報告されている。そこで今年度は口腔バイオフィルム中で量的に最も多い口腔レンサ球菌を用いて、菌のヒト動脈内皮細胞(HAEC)への侵入能力の検討を行なった。HAECとそれぞれの口腔レンサ球菌を共培養後、培地およびHAEC表面に存在する菌を抗生物質で処理し、HAECに侵入して抗生剤の影響を受けずに生き残った菌を回収し、これをBHI寒天培地にて嫌気的に培養した。48時間後に菌のコロニー数を計測し、[検出された菌数(CFU)/HAECと共培養した菌数(CFU)]×100の値をその菌のHAECへの侵入率として算出した。口腔レンサ球菌の、HAEC侵入における菌とHAEC数の比率および侵入時間の影響を調べたところ、同じ侵入時間であれば、菌とヒト動脈内皮細胞数の比率は異なっていても、菌は同程度の侵入率を示した。一方、菌のHAECへの侵入率は、侵入時間が長くなるほど増加した。今回検討した9種類10系統の口腔レンサ球菌は、全てHAECへの侵入能力を有していた。
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