研究概要 |
目的:ミラーニューロンは他者の運動を自分の運動として置き換えて活動するニューロンとされている。嚥下関連視覚刺激の提示によって嚥下のミラーニューロンの活動を検証し、新たなリハビリテーションへの応用が可能か検討した。また、この新しいリハビリテーションの臨床への応用を検討するため、これまでのリハビリテーションが困難な認知症高齢者の食行動の障害について実態調査を行った。 実験方法:被験者は健常者15名。脳活動の計測は3T-fMRIと306チャンネルMEGを使用した。fMRIの実験では嚥下運動に関連する動画8種類とそのコントロール動画を被験者に提示し、その時の脳活動を計測し、解析を行った。MEGの実験では嚥下に関係した刺激(静止画視覚刺激・嚥下動画視覚刺激・嚥下音刺激・人工雑音刺激)を単体あるいは組み合わせて提示し、激提示時に発生する脳磁場を全頭型MEGにて測定し解析した。 認知症高齢者の食行動の実態調査では施設およびグループホーム入所中の認知症高齢者でアルツハイマー型認知症の診断があり、経口摂取している150人を対象とし、認知機能検査,神経学的検査,生活機能調査を行った.また食事開始から終了までを観察し,対象者の摂食回数や摂食以外の行動,機能障害等を調査した. 結果:fMRIの研究では水嚥下・X線透視・側貌動画(WXL)と咀嚼嚥下・X線透視・側貌動画(CXL)の2つの条件提示でミラーニューロン領野に活動を認めた。MEGの研究では静止画刺激・音刺激ではミラーニューロンの活動は確認されなかったが、嚥下動画刺激の関連した実験では刺激提示-620~-720msにおいてミラーニューロン領野の活動が確認された。 認知症高齢者の食行動の実態調査の結果に関しては自立摂食を阻害する要因について検討を行ったところ、「食事開始困難」「嚥下障害の徴候」「認知症重症度」が要因として挙げられた。 考察:fMRIおよびMEGという異なる脳機能計測装置を用いて、嚥下のミラーニューロン領野に活動を認めた。 以上の結果から嚥下に関連した視覚刺激によりミラーニューロンの惹起が可能であることが示唆された。また、アルツハイマー型認知症患者の食行動の実態調査により、自立摂食を維持するために食事開始を促すような食事環境の調整や、食事開始を促すことが必要であることが示唆された。このことからミラーニューロンシステムを用いた食支援をおこなうことで、これまで困難とされてきた、認知症高齢者の食の問題を改善できる可能性が示唆された。
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