アスパラギン酸のラセミ化率を用いた歯からの年齢推定は、最も正確に年齢を求めることが可能と思われる。しかし、ラセミ化反応は化学反応のため、とくに、熱に影響される。このため、強く熱せられた歯から正確に推定年齢を特定することは、重要な意義がある。そこで、備品として購入した測色計を用いて、焼死体の歯から年齢推定可能か否か検索した。その結果、褐色になった焼死体の歯のアスパラギン酸のラセミ化率と測色値との間に高い相関がみられ、年齢推定に役立つことが確認できた。 一方、欧米諸国ではアミノ酸のラセミ化率(D/L比)がDNAの保存状態と深い関わりを持っていることが知られている。しかし、この種の報告例は、わが国ではほとんどみられない。とくに、日本のような保存性の低いとされる酸性土壌では、DNA保存性に関する情報を検索することも意義あることと考える。そこで、日本の酸性土壌における白骨化した死体の歯を供して、アミノ酸のラセミ化率とDNA情報の保存性について検索した。歯の歯根部におけるラセミ化率は、0.02〜0.04を示し、同一資料よりDNAをPCRしたところ、すべて250bpにおいて増幅が確認された。また、歯根部以外でもラセミ化率とPCRの増幅性との相関がみられた。ラセミ化率の低い資料に熱処理を加えたところ、0.083を超えると90bpにおいてもPCRによる増幅が確認できなかった。これらのことから、日本のような多湿の環境下においても、アミノ酸のラセミ化率は、DNA保存性に関する情報を提供するとともに、DNA分析可能な貴重な資料を効率良く選別でき、大変有効な手段となる可能性が示唆された。
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