本研究の目的は、患者と看護師が登場する仮想場面を用い、その場面での看護師の思考傾向や患者心理の理解方法の違いを検討し、看護師の思考の違いによる効果を検証することであった。 人工肛門造設予定の患者が人工肛門を否認した場面を取り上げて、その時の患者心理を推測する教育プログラムを作成した。このプログラムは、模擬場面の入ったDVDを各自で視聴した後、患者心理推測などの自分の考えを示してもらい、その後に一連の自分の思考過程をメタ認知を使って振り返ってもらうものであった。これを26名の看護師を対象に実施した。結果として以下のことが示された。【回答の振り返りによる思考方法の特徴】では、「(1)患者の発言の再生の正確さ」は「正確に再生できた」2名(7.7%)、「まあまあ正確に再生できた」12名(46.2%)、「どちらともいえない」4名(15.4%)、「あまり正確に再生できなかった」6名(23.1%)、「まったく正確に再生できなかった」2名(7.7%)であった。(2)推測した患者心理の分類では「病気を軽く考えている」6名(23.1%)ともっとも多く、次いで「仕事を優先に考えている」と「人工肛門に対する消極的否定」5名(19.2%)であった。(3)患者心理推測の根拠の分類では「正確な患者の言葉」と「不正確な患者の言葉」8名(30.8%)であった。(4)看護師としての対応の分類では「人工肛門の発言の理由を確認する」6名(23.1%)であった。「(1)患者の発言の再生の正確さ」の理由をみると、患者の発言の中の要素を挙げ、それが再生の中に入っているかどうかで正確さを判断している特徴がみられた。患者の言葉を厳密に正確に再生できているかどうかには着目されていなかった。また、メタ認知を使った自分の思考過程の振り返りでは、心理推測や対応内容を振り返ることができており、別の視点からの推測が考案されていた。つまり、看護師は患者の発言を厳密に正確に再生することを重要視していない傾向が明らかとなり、思考の振り返りにより視点を広げて思考できる可能性が示された。よって、患者の発言の正確な再生やメタ認知を使った振り返りの内容を含む教育プログラムの有用性が確認された。
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