病気をコントロールしながら生活している人々が、病気であることによって、あるいは病気の管理に必要な養生法を続けようとするときに、(1)他者(自分以外の個人、集団、組織)のどのような反応(言語表現・行動)に直面しているか、および(2)他者の反応(言語表現・行動)に対して病気である個人はどのような思いを抱いているか、(3)自分の病気のことを誰にどのように伝えているか、そのように伝えている理由は何か、(4)自分の病気を他者に伝えようとしたときに躊躇した経験、(5)自分の病気を他者に伝えるときの難しさが日々の養生法にどのような影響をもたらしているかについてインタビューを実施し、病気のある生活における他者への「言いづらさ」がどのような実状にあるかを明らかにする。その結果をふまえ、人々がどのようなサポートを求めているかを導き、検討する。また、病気のコントロールをしながら生活している人々にケアを提供している看護職者にインタビューを実施し、わが国の文化における他者への「言いづらさ」を看護職者がどのように捉え、どのようなケアを提供しているかを明らかにする。それらの結果をふまえ、人々が生活の中で求めている支援内容と、実際に提供されているケア内容との両者を分析し、これからの看護のあり方を検討する。これらの検討を通して、生活の中で養生法を続けることが求められる慢性の病い(クロニックイルネス、chronic illness)の領域における人間のとらえ方、健康のとらえ方、および環境のとらえ方について看護学的に特性を導き、看護のあり方を追究し、看護理論の基盤を構築する。 なお、本研究においては、病気の生活として糖尿病(1型・2型糖尿病等)、精神疾患(統合失調症・依存症等)、ストーマをもつ人々(オストメイト)およびHIV感染症などの慢性特性の病気をもつ人々の生活に焦点をあてる。ここにおける病気の慢性特性は、J.コービンとA.ストラウスによる「chronicity:長く続くという慢性状況の特性」の考え方に基づく。また、インタビューの実施に際しては、R.アトキンソンによるライフストーリーインタビューとM.ブーバーによる対話(Zweisprache)の考え方を基盤として実施し、インタビュー内容からアーキタイプ(元型)を見出していく。
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