研究概要 |
1. 研究目的:I型糖尿病を持つ青年期患者からの長期的なメンタリングを活用した介入プログラムを思春期患児に適用し,思春期患児の自己管理行動や自己概念の発達と血糖コントロールへの影響を与えるかを検討した。 2. 研究方法:(1)対象は中学生から高校生までの1型糖尿病患児15名(メンティー)と青年期1型糖尿病患者8名(メンター)。(2)メンティーとメンターのマッチングは性別・年齢・性格などを考慮し,メンター1人につき2~3人のメンティーの組合せとした。(3)介入方法:対処行動の獲得を目的とした介入セッション終了後からメンターが月1回程度の頻度で電子メール等を用いて1年間かかわり,メンティーの生活上の悩みや療養行動の課題へメンタリングを行った。(4)介入効果の評価:思春期患児への介入プログラムの効果を検討するために,属性,HbA1c値,糖尿病問題解決尺度(DPSMA),糖尿病自己効力感尺度(SED),自己肯定意識尺度,メンタリング尺度を介入前,介入セッション後1か月,6か月,12か月に測定し、1年間の介入期間中の各尺度得点とHbA1c値の比較には,Friedman検定,または,繰り返しのある一元配置の分散分析を用い分析した。3. 結果:1年間のメンタリングを最後まで終了した思春期患児10名を分析対象にした。患児の平均年齢は13.8±1.8歳,平均罹病期間5.2±3.6年であった。1)思春期患児への介入効果:メンティーのHbA1c値は,介入前8.60%介入セッション後1か月7.80%,6か月7.94%,12か月7.09%と低下し,すべての介入期間で介入セッション後に有意に低下した(F=12.17,df=3,p=0.00)。SED尺度の下位尺度である「糖尿病に関する項目」は,介入前98.40±19.04点,介入セッション後1か月110.20±15.55点,6か月108.90±20.40点,12か月107.20±18.68点と,介入前後で有意差を認めた(F=3.45,df=3,p=0.03)。また,多重比較の結果,介入セッション後1か月と6か月に有意な得点の上昇を認めた。メンタリング尺度の下位尺度であるメンターに対する「満足度」「幸福度」は,介入期間中に高得点を維持したが,メンターに話を聞いてもらいアドバイスを得たことを示す「対処支援」得点は,介入セッション後12か月に11.80点から9.70点と有意に低下した(χ2=10.38,df=2,p=0.01)。4. 考察:思春期糖尿病患児へのメンタリングを用いた介入プログラムの活用は,介入セッション後6か月にわたる自己効力感の向上と1年間の血糖コントロールの改善に効果を示した。また,介入セッション後6か月まではメンタリング関係に満足していたが,その後親密性は低下していった。今後,メンタリング関係をより強化し介入効果を高めるためには,コミュニケーションスキルを取り入れたメンターへの事前指導の導入,初期の段階での信頼関係構築のサポート,そして,メンタリング関係のモニタリングを強化する支援の必要性が示唆された。
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