〔目的〕出産後尿失禁を有する者に骨盤底筋訓練を行ってもらい、その効果をMRIを用いた骨盤底の支持組織の形態学的計測により評価できるかどうかを検証した。 〔方法〕対象は出産後4・5か月時に腹圧性尿失禁を有する11人で、年齢31〜40歳、経膣出産回数1〜2回であった。訓練は、遅筋と速筋を強化するよう設定し、3か月間継続した。骨盤底の支持組織の形態学的評価にはMRIを用い、T2強調横断像で、尿道の支持構造を、シネ画像の正中矢状断像で安静時と骨盤底筋収縮時における、膀胱・子宮頚部の仙骨からの位置と高さを、それぞれ訓練の前後1か月毎に測定した。尿失禁の改善度と各測定値を訓練の前後で統計学的に比較した。 〔成果〕訓練開始後3か月の時点では11人全例の症状が改善し、尿失禁の消失は8例(73%)であった。MRIによる骨盤底の評価では、T2強調画像については、訓練前と後の間に有意差はなかった。訓練後3か月のシネ画像による検討では、安静時に膀胱・子宮頚部は前方へ移動した。これは、肛門挙筋の静止圧力が強まり、筋の緊張が強まったことが示唆される。一方、収縮時に膀胱頚部は挙上した。これは、骨盤底筋の収縮力が向上したものと考えられる。以上より、出産後の腹圧性尿失禁者における骨盤底筋訓練による膀胱・子宮頚部の支持構造の強化を、MRIを用いて形態学的に評価できることが示唆された。 〔意義〕本研究では、出産に伴う骨盤底の損傷や弛緩の修復に、骨盤底筋訓練が果たす役割を形態学的に証明することが示唆された。骨盤底筋訓練の効果を視覚により示すことは、出産後の骨盤底ケアを普及させ、出産後尿失禁の慢性化を予防し、女性の生涯にわたるQOLの向上を指向したエビデンスに基づいた質の高いヘルスケアの提供に貢献する。
|