初年度の活動として、(1)文献検討、(2)先行研究の結果を用いて、本研究の目的に焦点をあわせた二次分析、研究計画の具体的立案((3)認知課題・運動課題の検討、(4)評価指標の改変と信頼性・妥当性の検討)を行った。 認知症棟に入院・入所する歩行可能な認知症高齢者59名の二重課題歩行を評価した。二重課題の両立群が38名、両立不可群が21名で、両群の年齢やMMSEに有意な違いはなかった。また性別、認知症の種類、転倒経験の有無等に有意な偏りはなかった。両立群に比べて両立不可群に該当者の割合が有意に多かった項目は、歩行障害、立ち上がり不安定、トイレ動作の要介助、移乗の要介助等であった(p<0.05)。二重課題歩行が両立できるか否かは認知症の種類、認知機能よりも身体機能に左右された。ADLが自立した高齢者は、たとえ認知機能の低下により注意資源の量が小さくなっても、歩行は習熟した自動的処理としてわずかな注意の配分で済むために二重課題を両立できたが、ADLに介助を要する高齢者は、歩行に多くの注意を要するために認知課題を処理しきれなくなったと推察される。 注意配分の評価指標としてカラーストループテスの短縮版を作成し、大学生から特定高齢者まで多様な人々144名を対象に試行した。その結果、短縮版ストループテストと基準尺度である上中下検査は強い相関関係があった。また認知機能の低下を有する対象者、60歳以上の対象者はそれ以外にくらべて短縮版ストループテストの所要時間が長く、この結果は上中下検査と同様の傾向であった。短縮版ストループテストが従来のカラーストループテストに比べて簡便であり、身近な前頭葉機能障害検査として臨床の場で使用が可能であることが示唆され、本研究の指標として用いることにした。
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