(1)背景 人は日頃歩くときに様々な環境の変化を解釈し、姿勢や歩き方を調整している。近年、立位姿勢の制御や歩行に影響を及ぼす要因として、遂行機能のひとつである二重課題が注目されている。二重課題とは複数の課題を同時にこなすことで、たとえば「静止立位姿勢を維持する」という主課題と同時に計算などの注意要求課題(副課題)を課し、主課題のパフォーマンスを評価するものである。歩行中の認知症高齢者に話しかけると、無視して歩き続けるか立ち止まって会話に答える場面が見られるが、それは会話しながら話すという二重課題の遂行が難しくなったことを示す。 二重課題を評価することで遂行機能が低下し始めた高齢者の転倒リスクを早期に発見する可能性が見出されたが、従来の二重課題検査は重心動揺計、床反力計、足底圧分布計などの大型測定機器・設備を要するもので、限られた施設でしか評価を受けることができない。そこで、本研究は、公民館など高齢者向けの保健事業が行われる場で二重課題を測定する方法「地域版二重課題歩行」を作成することとした。 (2)研究目的 地域高齢者の認知機能・歩行機能に応じた二重課題と評価基準を検討し、「地域版二重課題歩行」を開発する地域版二重課題歩行と転倒の関連を明らかにする (2)方法 疫学調査を中心に、下記の研究を積み重ねて検討する。 (1)先行研究やこれまでの既存データの再分析に基づき、地域版二重課題歩行のプロトコールを作成 (2)長野県中信地域に暮らす成人を対象に、並行して用いる注意配分機能の評価指標の改訂(短縮版ストループテスト)、および信頼性、妥当性の検討 (3)長野県中信地域に暮らす65 歳以上の在宅高齢者を対象に、地域版二重課題歩行の基準妥当性の検討、および、転倒リスクとの関連の検討 (4)長野県中信地域に暮らす65歳以上の在宅高齢者を対象に、地域版二重課題歩行の予測妥当性の検討 (5)地域版二重課題歩行の普及・啓発
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