研究概要 |
今年度の研究目的は健常高齢者にもたらされる腹式呼吸の心身への変化を調べることで、加齢による腹式呼吸に対する反応を明らかにすることであった。COPD患者の呼吸リハビリなどで行われる腹式呼吸は少し長くなることも予想されるため、20分程度の意識的腹式呼吸を行った場合の負荷について、健康成人や高齢者で検討し、腹式呼吸自体が負荷になっていないかどうか、また、腹式呼吸時の身体への影響について確認した。 健康成人女性を対象に、腹式呼吸を20分間行い、腹式呼吸条件とコントロール条件で比較したが、腹式呼吸を行っている時には副交感神経系が優位となり、尿中のアドレナリン濃度、ノルアドレナリン濃度及びコルチゾール濃度は有意に低下を示した。この結果により、健常成人では20分という少し長い腹式呼吸を行ったとしても身体的な負荷(ストレッサー)とはなっていないことが確認された(日本看護研究学会雑誌,2008)。その結果を受けて、2名の高齢者に通常の呼吸を20分間行う条件、腹式呼吸を20分間行う条件、そして、腹式呼吸10分間行い、通常の呼吸を10分間行った3条件を検討した。この結果では、2名の高齢者は循環や自律神経反応でそれぞれの条件で個別的な反応を見せたが、腹式呼吸時には2名とも副交感神経系の指標が増加を示した(第7回日本看護技術学会発表,2008)。これらの結果は、健常な成人及び高齢者ともに意識的な腹式呼吸が負荷にはなっていないことを示している。このため、現在は高齢者12名に対して、同様の研究を進めており、腹式呼吸前の状態に比べると腹式呼吸中の副交感神経指標が優位となること、また、腹式呼吸後には尿中ノルアドレナリン濃度も低下することが認められている。今後、腹式呼吸時の高齢者の身体への反応について明らかにすることはCOPD患者への呼吸リハビリの早期介入への一助となると考える。
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