健康高齢者と健康成人を対象に意識的に横隔膜を使用する呼吸法(以下、横隔膜呼吸)を行ったときの循環反応、自律神經系及びホルモンについて、慢性閉塞性肺疾患患者における呼吸リハビリとしての可能性を考える基礎データとして検討した。 対象は成人女性11名(20~42歳)と地域で生活している高齢者男女各7名(65~74歳)とし、2通りの呼吸法を行った。それぞれの条件は条件1が安静5分-通常の呼吸15分、条件2が安静5分-横隔膜呼吸15分であった。横隔膜呼吸の方法は、録音音声による合図で吸気時間:呼気時間を1:2のリズムで、吸気は鼻から吸入し、呼気は口からゆっくり呼出し、呼吸数は1分間に6回とした。測定項目は血圧、呼吸曲線、腹部筋電図および心電図で、心電図から得られたRR間隔の時系列データを用いてローレンツプロット解析を行い、自律神経系反応を調べた。RR間隔、血圧及び自律神経系の反応は安静状態と通常の呼吸もしくは横隔膜呼吸を行った10~15分の結果を示した。また、実験前後に採取した尿より、尿中アドレナリン及びノルアドレナリン濃度を高速液体クロマトグラフィーにて分析した。 条件1及び条件2のRR間隔は成人と高齢者ではともに時間経過で延長した。高齢者の血圧は時間経過で低下したが、成人では逆に上昇した。高齢者の副交感神経系の指標は、条件2では横隔膜呼吸を行っているときに成人よりも上昇程度が大きかったが、成人の交感神経系の指標は、条件2では横隔膜呼吸を行っているときに高齢者より低下程度が大きかった。尿中カテコールアミンは条件2で成人と高齢者ともに横隔膜呼吸後に減少したが、成人の減少程度は高齢者に比べ大きかった。 横隔膜呼吸の反応は程度の差はあるが、高齢者でもリラクセーションを導く方法になりうると考えられ、呼吸訓練として患者に対して行っても負担にはならないと示唆された。
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