1. 家族が家族員の薬物問題に適応していく過程があるのか、家族の回復は依存症者本人の回復にどのように寄与できるのかを検討する目的で、薬物依存症者の家族22名に半構造化インタビューを実施した。家族の全発言を逐語録に書き起こし、分析の作業には、KJ法の基本原理を利用しながらコーディングの作業ができる質的分析ソフト「MAX QDA 2007日本版」を使用した。分析のコードは家族会で聞かれた言葉、インタビューガイド、インタビューの中から対象者に言及された内容や単語から作成した。分析の結果、「生い立ちと子供の薬物問題がわかったときから今まで」に上げた329のコードが得られた。これらコード化したものから親の成育歴、子育て、援助要請、回復の糸口、新しい人生観、家族の再生の7つの領域に整理しライフヒストーリーへと構成した。2. (1)親は自分たちの生い立ちは戦後の苦労も少なく恵まれて育ち、負い目を持っている親はいなかった。(2)自分の子供が薬物依存症と分かったときから子育ての失敗感、自責の念を持っていた。(3)子どもの薬物問題に遭遇したとき、まさかとの思いで否認し、自分たちだけで解決を図ろうとしたが失敗の繰り返しで、子どもを殺して自分たちも死のうと一家心中を図るなどどん底の苦しみを味わった。ここがターニングポイントとなった。(4)自分たちの努力では何も解決できなかった家族は専門機関に相談し、家族の治療が開始された。(5)家族は本人に関わらなくなった、家族会に参加して回復を図った。(6)子どもと関わらない結果、子どもも専門機関で治療を受け、回復の道を歩み始めた。(7)子どもと家族はそれぞれ心理的な距離を置き回復し、家族の再生が図られていた。3. 家族が家族員の薬物問題に適応していく過程にはショック→家族内除去努力→混乱→ターニングポイント→突き放し→本人抜きの家族再組織化→家族の安定期→家族全体の再組織化という8段階があるとわかった。特に、家族だけで薬物問題を抱え込んでしまうターニングポイントまでの早期支援が、その後の回復への与える影響は大きい。多くの人が家族の適応過程を知ることによって早期に支援が開始され薬物問題の解決の一助を担えると考える。
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