研究概要 |
発癌過程と胎形成過程においては、自律的な細胞増殖、細胞運動性、ダイナミックな形態変化、細胞の不均一性、微小環境との相互作用など多くの共通した現象が認められる。近年癌組織においても幹細胞様の性格を有する癌幹細胞の存在が明らかになりつつあり、癌治療の重要なターゲットと考えられている。これまでに我々は、肝細胞癌は幹紳胞マーカーの発現状態によって4つのサブタイプに分類できること、肝幹細胞様肝細胞癌は若年発症で門脈浸潤傾向が強く予後が不良であること、Wntシグナルの活性化が認められること、一部のEpCAM陽性細胞が癌幹細胞の特徴を有し抗がん剤抵抗性であること、などを見出してきた。平成21年度において我々は、肝細胞癌培養細胞および外科切除後の初代肝癌細胞を用いNOD/SCIDマウスへ移植し、腫瘍部の局所にPBS,抗がん剤である5-FU,肝細胞分化誘導サイトカインの一つであるoncostatin M、さらに5-FUとoncostatin M同時投与を行い、Oncostatin Mの投与により癌幹細胞分画の減少および肝細胞特異的なアルブミンやCYP3A4などの酵素誘導が認められ、肝細胞癌の肝細胞系への分化が惹起されることを同定した。一方、5-FU投与は癌幹細胞分画の上昇、AFPやCK19などの肝幹・前駆細胞マーカーの上昇をきたした。興味深いことに、oncostatin Mと5-FUを同時に投与した際には、PBSや5-FU, oncostatin Mの単独投与に比べて統計的に有意にアポトーシス細胞の増加、腫瘍増殖の抑制が認められた。本年度ではさらに癌幹細胞システムにおけるoncostatin Mの影響を詳細に検討、oncostatin M投与は癌幹細胞を分化誘導させる一方、細胞周期を回転させることでdormantな癌幹細胞の抗癌剤感受性を亢進させていることを見出した。今回の解析から、oncostatin Mは肝細胞癌における癌幹細胞の分化誘導を起こしている一方、非癌幹細胞を従来の抗癌剤を用いて同時に治療することの重要性が示唆され、肝細胞癌に対する新たな治療法の開発につながることが期待された。
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