研究概要 |
前年度までに、リゾリン脂質Sphingosine-1-phosphate (SIP)の受容体が胎盤に発現し、その産生酵素Sphingosine kinase (SphK)が脱落膜に存在することを見出した。またもうひとつのリゾリン脂質Lysophosphatidic acid (LPA)の絨毛浸潤促進作用も明らかにしてきた。 1. 前年度にひきつづき、LPAの絨毛浸潤促進作用に、ホスホリパーゼC(PLC)が関与することがさらに明らかにされ、Akt, p42/22, PLC、STAT-3の系が関与することが明らかとなった。 2. LPA添加により、Giを介する系路で、絨毛外絨毛細胞株HTR-8/SVneo細胞でIL-6の分泌が増加することが明らかとなった。IL-8の分泌には影響を与えなかった。 3. S1P添加により、LPAによる絨毛外絨毛細胞株HTR-8/SVneo細胞の遊走、浸潤促進作用はトランスウエルを用いた方法で、有意に抑制されることが(p<0.01)明らかになった。 4. LPA刺激により絨毛外絨毛細胞株HTR-8/SVneo細胞における亢進を認めたuPA, MMF-2, 9は、SIP添加により、コントロールレペルにまで抑制された。 5. S1P添加により、LPAによる初代培養絨毛外絨毛細胞(倫理委員会承認、同意の得られた患者より採取)におけるoutgrowthの促進作用は抑制された(p<0.05)。 6. 脱落膜組織(倫理委員会承認、同意の得られた患者より採取)での脱落膜組織における1%酸素下培養では20%酸素下培養に比べ、SphKの発現は亢進していた。 以上より、胎盤形成には促進的に作用するLPAに対し、同じリゾリン脂質であるSIPは抑制的に作用し、妊娠高血圧症候群の病態の胎盤低形成に関与している可能性が示唆された。これを、阻害することにより、今後の新たな妊娠高血圧症候群の治療法を確立できる可能性がある。
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