研究の目的:一過性内耳虚血に対する人工酸素運搬体の有用性を検討する。 突発性難聴は原因不明の感音難聴であるが、その原因の一つとして内耳虚血が推定されている。今回、突発性難聴の一因と考えられている内耳虚血・再灌流障害に対する人工酸素運搬体の有用性について検討を行った。実験にはスナネズミを用いた。両側の椎骨動脈に絹系をかけ、5gの重りで牽引することにより、後脳虚血を引き起こすことが可能であるが、同時に、前下脳動脈の分枝である内耳動脈も虚血に陥る。よって、内耳虚血を引き起こすことが可能である。このモデルを用いて、実験を行った。人工酸素運搬体にはLiposome-encapusulated hemoglobin (LEH)を使用した。LEHはHbをリポソームでカプセル化したもので、Hbが直接血管内皮に作用しないため副作用が少ない利点がある。 対象は出生12週から16週の雄のスナネズミを用いた。15分間、両側椎骨動脈を絹系にて牽引し、一過性内耳虚血を生じさせた。虚血直前に生理食塩水、LEH(高親和性、低親和性の2種類)、同種赤血球をそれぞれ2ml/kg投与し、虚血後の聴力変化をABRを用いて測定した。ABRは8kHz、16kHz、32kHzの3周波数を用いて検討した。 ABRでの検討では、LEHの投与により有意に聴力の閾値上昇を抑制した。また、高酸素親和性LEHの方が、低酸素親和性LEHと比較して優位に聴力閾値上昇を抑制していた。組織学的検討でも同様の結果であった。同様に虚血1時間後にLEHを投与しても、内耳障害に対する保護効果を認めた。今回の結果から、人工酸素運搬体が突発性難聴に対する新にな治療法となり得る可能性が示唆された。
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