研究概要 |
アルツハイマー病(以下、ア病と略す)は最も頻度の高い神経変性疾患であり、認知症の最大の原因となっている(Mattson, Nature 2004)。これまでの疫学研究から多くのア病リスクファクターが指摘されている。最大のリスクファクターは加齢であり、遺伝子的リスクファクターとしてはApoE4が知られている。また、女性においてア病発症のリスクが高いことも多数報告されており(Bachmanet al., Neurology 1992)、特に閉経を境にしてそのリスクが急増することが知られている(Green and Simpkins, Ann NY Acad Sci 2000)。実際にヒトにおいてもげっ歯類においても卵巣を摘除されることにより記憶障害が誘発されることが報告されている(Tanget al., Kancet 1996)。CD-1(8週齢)のメスマウスを用いて、OVXマウスを作成後、行動学的にOpen Field testとY-maze testを用いて卵巣摘除による記憶障害を検討した。その結果、報告通り、術後、4週間で記憶障害が誘導されることがわかった。昨年度は、2001年にア病患者後頭葉より同定された、ア病関連毒性を抑制する因子Humanin(HN)及び、その誘導体(CLN)が卵巣摘除によって誘導される記憶障害抑制効果があることが解った。その結果をふまえて、本年度は、HNやCLNが作用するメカニズムについて検討を行った。これまでにHNとCLNの作用機序として、STAT3のリン酸化が報告されている。リン酸化STAT3の阻害剤投与によって卵巣摘除誘導性の記憶障害がどうなるのかを検討した。その結果、AG490投与によって、HNとCLNの作用が阻害された。つまり、卵巣摘除による記憶障害の病態に、STAT3のリン酸化が関わっていることも示唆している
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