本研究では、サリンをはじめとする神経ガス、およびメタミドホスなどの有機リン系農薬類の毒性に関与する新規ターゲット酵素の探索により、新たな毒性発現機構を解明することを目的とするものである。これまでに、モデル酵素を用い、化学兵器であるソマンが結合した酵素をタンパク質分解酵素で消化した後にLC-MS分析を行い、ソマン(有機リン)結合ペプチドを特異的に検出する方法を確立しているが、多くの夾雑タンパク質が共存し、有機リン結合ペプチドの存在比が低い場合、LC-MS分析時に有機リン結合ペプチドが存在するにも関わらず、含有量の多い他のペプチドの分析が優先されてしまい、特異的な検出は不可能であった。 そこで、本年は昨年後半に引き続き、有機リン結合ペプチドの特異的な精製・濃縮方法について検討をおこなった。既にTiO2、ZrO2を固定化した担体によりリン酸化ペプチドの精製がおこなわれていることから、これを利用して精製を試みた。処理前の有機リン結合ペプチドの精製前の量をLC-MS/MSで分析することにより定量した上で、精製各画分の定量をおこなった。その結果、精製カラム規定通りの溶出条件で、素通り画分、洗浄画分、溶出画分の和が精製前の10%未満であったことから、有機リン結合ペプチドが比較的強固にカラムに結合しているものと推察された。したがって、溶出すれば精製度が高いものが得られると考えられたことから、溶出条件を種々検討したが、塩濃度とpHを変化させることで溶出量がやや改善したものの、十分な回収をすることは不可能であった。
|