平成21年度には、国立大学が法人化された後の産学連携の実態を調べるために、新たなデータ収集を行い、産学連携により生まれた発明がどのように出願されているのかを分析した。この分析の過程で、特許出願データ中に存在する「発明者情報」の不確実性が大きな障害となることが判明した。すなわち、同姓同名の発明者が単一の発明者として扱われる問題(偽陽性)と、同一の個人が別々の発明者として扱われる(偽陰性)の問題を解決する必要があるということである。この点は、個別発明者を単位とする研究者ネットワーク分析においては、大きな問題となりえる。この障害を克服するために、発明者の名寄せの方法の検討を開始した。また、平成21年度には上記以外に、組織内部の知識ストックの減衰率を特許-特許引用の減衰から推定する問題に取り組み、欧州(ウィーン)において開催された欧州特許庁とOECD共催の特許統計に関する国際会議(Patent statistics for decision making)で発表するとともに、欧米の研究者との情報交換およびディスカッションを行った。さらに、産学連携の実施が企業内部の研究開発活動とイノベーションにどのような影響を与えるのかをモデル化するために、科学技術政策研究所が2003年に実施した全国イノベーション調査の個票データを利用し、構造方程式モデリング(SEM)の手法を用いた分析を行った。この結果、産学連携は企業のイノベーション・アウトプットに直接的な寄与はしないが、外部知識の吸収能力の向上を通じて寄与するというモデルを支持する結果が得られた。
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