研究概要 |
延命治療中止に関わる議論が本格的に開始された日本で、臨床的に脳死と診断された患者において治療終了が選択肢とされているか否かに関し、現状と関連要因を把握することを目的として、平成20~21年に、日本救急医学会会員である全国の勤務医2,802名に対し無記名自記式質問紙調査を実施し、930名から有効回答を得た(有効回収率:33.1%)。回答者は男性が92.8%、平均年齢43.0歳、脳外科専門医は20.3%、救急科専門医は43.9%、両科の専門医は11.0%。臨床的脳死患者における人工呼吸器の中止経験を有した回答者は全体の17.8%であった。患者が臓器ドナーであるか否かにかかわらず病態診断としての脳死診断を実施していると回答した医師は全体の46.6%であったが、うち3分の2は、脳死診断後も人工呼吸器は中止も設定変更も行わずそのまま継続すると回答した。患者家族が治療終了を望んでいる臨床的脳死患者のシナリオ症例における治療方針については、「現在の治療内容を変更しない」が21.3%、「昇圧剤とADHの投与量は変更するが、人工呼吸器の設定は変更しない」が32.4%で、「昇圧剤とADHの投与量を変更し、人工呼吸器の設定も下げる」が27.8%であった。人工呼吸器を中止しない理由(複数回答)は、「家族の心理的負担軽減」が55.2%、「医師(回答者)自身の心理的負担軽減」が63.3%であった。医師の心理的負担を構成する要因として、マスコミ問題(88.9%)、法的問題(83.2%)、人工呼吸器の中止を自分の手で行うことへの嫌悪感(60.1%)などがあることが示された。この患者群における人工呼吸器の中止は非常に限定的であり、中止回避要因として、マスコミ問題や法的問題とともに、中止に対する医師の心理的障壁があることが示され、それらの要因は患者家族の治療終了要望よりも臨床医の意思決定に強い影響を有していることが示唆された。同調査の報告内容は、平成21年度の日本救急医学会での発表の際に、全国各地の新聞にも報道された。
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